ヤルツァンボ大峡谷
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ヤルツァンボ大峡谷

    ヤルツァンボ(雅魯蔵布)河はチベット東南部のミリン県イパイ郷を入口にして、眼前に横たわるヒマラヤを切り開き、ナンジャバワ峰に沿って、唯一の奇異な蹄のような形を描きながら大きくカーブした後、メドグ県に入り、最後にバシかに到達する。これがヤルツァンボ大峡谷である。総延長540.6キロ。峡谷の最深部はナンジャバワ峰、里勒(リレ)峰とヤルツァンボ河が交差するところ、ゾンロン村だ。

    深さは6009メートル。デグ村附近では片側の峡谷は最も深くて7057メートルある。峡谷の平均深度は2268メートル。大峡谷の水面は入口の 660メートル地点から徐々に狭まっていく。最も狭いところで35メートル。最大勾配率(高低差と距離の比率)は7.535%。これらの数字はいずれも、長さ370キロ、深さ2133メートルの米国のグランド・キャニオン、長さ90キロ、深さ3200メートルのペルーのコルか峡谷に勝るものだ。

    ヤルツァンボ大峡谷は、ヒマラヤを切り開くように続いているため、インド洋の季節風によって運ばれる水蒸気がチベット高原に入る最大の通り道になっている。大峡谷に沿ってこの通路があることから、熱帯山地に属するチベット東南部の6つの緯度に緑の世界が出現した。東北地方と雲南省に次ぐ国内第3の森林地帯だ。高原の生物種は 60~70%が大峡谷に集中。ここでは寒冷凍結地帯から熱帯季節風雨林地帯まで、垂直の自然帯が最も完璧な形で残っている。季節風型海洋性の氷河、河床の 4大瀑布、河段あたりの流水量が世界最大の水力資源……世界で最も緑豊かな峡谷であり、世界のほかの有名な峡谷にはみられないものだ。
 
    グランド・キャニオンやコルか峡谷は干ばつ、半干ばつの環境のなかで形成されたため、植生はまばらで、景観も単調で荒漠としている。流水による浸食も弱い。峡谷を形成する外的な力の強さでは、ヤルツァンボ大峡谷にははるかに及ばない。 
 


    この大峡谷を「10文字」で概括してみたい。

    「高」:ヤルツァンボ大峡谷の両側には7782メートルのナンジャバワ峰と7294メートルの加拉白壨(ジャラバイレイ)峰が、雲を突くように高く聳え立っている。懸垂する氷河、峰にまとわりつく雲霧……気象は万千である。

    「壮」:空中や高山から俯瞰すると、東ヒマラヤの無数の雪峰とエメラルドグリーンの群山のなかに、ヤルツァンボ河が険しい峡谷を切り出しているのが分かる。ナンジャバワ峰で大きくカーブする姿は実に壮大で秀麗である。 
 
   「深」:ナンジャバワ峰とジャラバイレイ峰でも、峡谷の最深部は5382メートルもある。
 
   「潤」:峡谷の南側の年間降水量は最高4000ミリ。北側でも1500~2000ミリ。非常に湿潤であるため、密林に生息する生物はその多様性で世界に誇ることができる。

   「幽」:地勢は峻険で、人煙稀なところ。雲霧に遮られているため、どこまでも神秘的だ。まさに幽静な世界である。

   「長」:峡谷はナンジャバワ峰をめぐりながら504キロほど続いている。

   「険」:峡谷の両側には岩石が切り立ち、人を阻んできた。峡谷が完全踏破されたのは1998年以降のことである。

   「低」:海抜の最も低いところはバシか。わずか155メートルである。

   「奇」:峡谷はヒマラヤ山脈の付け根、その東西から突然南に向けて馬の蹄のように大きなカーブを描いていく。世界的にも奇異な景観である。

   「秀」:峡谷の秀麗さは天下に勝ると言われる。山や水、樹木、草、雲霧しかり。数百メートルの飛瀑、熱帯雨林地帯の低山が一気に雲天に突き出たような真っ白な雪の高峰。そして茫々たる林海。いずれも神のなせる技である。

    今日のヤルツァンボ大峡谷はすでに人を寄せ付けない険しい山、荒々しい流れではない。水面に咲き出たばかりの芙蓉のごとく、世界の東方に屹立しているのだ。大自然は人類に最も感慨深い、最も心豊かな贈り物を与えてくれた。
 

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